西暦2015年5月某日@都内某所カフェ
転職の面接を終えた足で彼女は現れた。
その見目からは全く想像が湧かないのだが、この眼前に出で立つ漆黒の長髪レディは、自他共に認める紛れもない「オタ」なのである。
なんのオタって?それは知らん人などいないであろう日本の国民的アイドルグループ群のことである。今回とある筋のツテを用いて、この稀有な女性との面会を取り付けることに成功した。
取材のテーマは「熱くなれ」。もちろん大黒摩季の歌の事ではない。また、決してそのアイドルグループの良さを説くものでもない。これは、彼女のオタ人生を通じて、「生きるとは何か?」というセンシティブかつ哲学的な思考を今まさにスマホの画面でこの記事をスクロールしているあなたに促すものである。
街頭アンケート記事のバカッぷりに微笑するのも良いが、たまには自己との対話に興じてみるのも悪くないのではなかろうか?
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「何で彼らを好きかって?そりゃあやっぱ顔でしょ。」
うむ、いきなり直球の回答である。
人生は短い。相手の顔色を伺った発言や、人によく見られようと自分の言葉に化粧を塗って無難にやり過ごす事を彼女は真っ向から否定する。
「二兎追うモノは一兎も得ず?そんなの自分の非力を隠す言い訳だよ。欲しいモノは、全部手に入れる。」
ドームクラスのコンサートを展開する人気アイドルグループともなると、そのグッズ販売はもの凄い数になる。しかし、彼女は中学時代からほぼ全てのコンサートグッズを手に入れてきたそうだ。
1回のコンサートに対する投資額は下記の具合。これが年に1~2回、かつ複数のグループを支持する場合はその分だけ追加の投資予算が必要とされる。まさに、狂気である。
*ちなみに主に「中高時代」の話という点も加味しておく
・チケット代:約5,000円
・グッズ代:約20,000円
・当日ファッション代(何と、コンサートの為に毎回洋服を新調するそうだ。):約25,000円
・その他雑費:約10,000円
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計:約60,000円(税別)
「TDL?どのアトラクションも私を待たせてるうちには入らないわ。」
上述のグッズ販売は店舗とファンの熾烈なマーケット(戦場)となり、数時間待ちでやっと買い付けに成功するといった事もザラにあるそうだ。そんなリングで12年間戦ってきた彼女は、昨今若者の早期退職にみる忍耐力の欠如について警鐘を鳴らしている。
「結果ってのはそう簡単に出るものなの?私なんて全種類のグッズを集めるためにどれだけの時間を費やしたか分からないよ。私、TDLも好きで良く行くんだけど、オタになって数年目くらいからかな、もはや待ち時間がカップラーメンの待機時間くらいに思えるようになっちゃった。」
「学生時代のテストと違って社会は回答が用意されていない。それでもゴールを求めて頑張るの。」
「オタ」ともなると良くイメージされるものの1つに「おっかけ」といった行為がある。
追っかけ(おっかけ、groupie グルーピー)とは、有名人のファンが、熱狂的になるあまりに、その有名人の行く先をどこまでも追いまわしてしまう行為。
引用:http://ja.wikipedia.org/wiki/追っかけ
もちろん彼女も紛れもないグルーピーレディの1人。特に学生時代、アイドルサイドからも有名な「オタ輩出校」に在籍していたそうで、そこでのエピソードを聞いた。
「ファン同士の情報網で、『今日は◯◯が何時に六本木の◯◯に来るらしいよ。』といったネタをキャッチして、皆で向かうの。」
まるで刑事(デカ)の様に先回りして現場へ張り付き、ターゲットとなる獲物の出現を待ち構えるそうだ。
「それでも本人に会えるかどうかは分からない。むしろ、会えない事の方が多いかな。寒い中数時間外で待ってて、結局会えずじまいなんて事は日常茶飯事。」
なるほど、努力は必ずしも実らないという社会の厳しさを、中高生の時から肌で感じてきた彼女の言葉にはズッシリとした重みがある。
これから世に出る若者たちは是非参考にしてほしい。
「周りにどう見られようと関係ない。むしろ、追っかけるものがない人って、人生楽しいの?って思うかな。」
まさに至言である。
オタって変わってる、とかそういう次元の話ではない。非常に本質をついた一言。彼女には、世界を変えるサービスの創造主などによく見られる、「異常なまでの没頭性」が見てとれる。
筆者含め周囲の人物には到底理解できない様な宇宙が彼女の脳内には広がっているのだろう。
確かに、何かにのめり込む人の姿は眩しくポジティブなオーラを纏っている。
「何も恥ずかしがる事はないよ。堂々と自分の思うままに行くべき。」と、力強くも優しいメッセージを残し、彼女は席を立った。
「彼氏?結婚?要らないよ。。だって私には支えてあげるべき人たちが既にいるもん。」
店を出て足早に夜の帳へと消えていく彼女に最後の問いを投げかけた。
「アイドル(偶像)とは違う、リアルな男性(彼氏、結婚)はあなたにとって必要ないのか、、?」
、、彼女の後ろ姿には一片の迷いもなかった。
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