「ポップカルチャーの元祖・三木鶏郎を語る」中村彩子さんインタビュー

今回は1950年代60年代を中心に活躍し、特にコントに音楽を取り込み社会や政治を風刺する”冗談音楽”や数多くのCMソング、テレビ主題歌を作詞・作曲したポップカルチャーの元祖とも言われている三木鶏郎さんについて、今年楽譜集「三木鶏郎ソング集」を発表された音楽家・中村彩子さんにお話を伺いました。

中脇(以下N):先ず、中村彩子さんと三木鶏郎さんとの出会をお話いただけますか

三木鶏郎

中村彩子(以下S):私が長年アレンジャーをやっているピアニストがいまして、そのピアニストから冗談音楽をピアノで伴奏できるようにアレンジして欲しいという依頼があったのがきっかけだったんです。
ただ、やっているうちにすごく音楽が魅力的で面白いなと思ったんです。ただ私はトリロー世代ではないのですよね。トリロー音楽が最初に注目されたのはNHKの「日曜娯楽版」というラジオのバラエティ番組で、それは昭和20年代なんです。それはもう全く私は知らない世界だったんですけど、逆に斬新というか、世相を風刺し人を笑わせることで当時の世の中が理解できる、そういった音楽は他に聞いたことがなく、すごく魅力的だなと思ったんです。これを本に残せないかなと思ったのがきっかけです。
ただ、本にするにしても編曲するにしても、先ず三木鶏郎さんのご遺族の許可がいるという事で事務所に連絡をしたところ、偶然にも晩年の助手をしていた方が私の大学の先輩で共通の知人もいたりして・・・。しかも鶏郎さんの音楽工房に嵐野英彦さんという作曲家がいたんですけど、嵐野さんは「森永」のサウンドロゴを書いた人です、嵐野さんがオペラを発表した際の前座をさせて頂いていたという縁もありまして。
それまで三木鶏郎さんの楽譜編曲って一切許諾を出してこなかったそうなんですけど「そういうご縁であれば、中村彩子さんには許諾を出しましょう」という事になって・・・。そんな経緯で曲集を作ったんです。今まで三木鶏郎さんの公式の楽譜集はご本人の自主出版を除き出た事がないんです。

(Photo:三木鶏郎)
N:なるほど、そうだったんですね。私もトリローさんの事はほとんど知らなくて、ググってみたらいろいろ出てきて・・・。それこそ大瀧詠一さんとのインタビューとかも聞かせていただきました。それはとても興味深い話でした。もちろん、曲も沢山聴かせて頂きました。鶏郎さんの音楽を聴くとメロディー・歌詞がキャッチーな部分が特徴だと思ったのですが、彩子さんはどんなところに音楽的な面白さがあると思いますか?

S:誰もが一瞬で覚えられるキャッチーな歌ですよね。ただ、あれだけキャッチーな曲ですが、ちゃんとした作曲のアプローチで書いていることにも驚かされました。今回編曲をするにあたって三木鶏郎企画研究所から本人直筆の楽譜を見せていただいたんですけど、とてもきちんとした楽譜だったんです。クラシックの作曲の勉強されていたんですね。当時のポップカルチャーは今ほど評価が高くなかったと思うのですが、しっかり書かれていました。その事は作曲を勉強した者としてすごく感銘を受けました。

N:三木鶏郎さんの音楽は、編曲もご自身でされているんですか。

S:原曲の話ですよね。当時、すごく売れっ子だったのでいろんなアレンジャーさんがいたのではないかと思います。

N:つまり、ソングライターという感じですよね。

S:そうですね。ソングライターですね。

N:歌詞もご自身で書いているものが多いのですか?

中村彩子さん

S:ほとんどそうですね。たまに作詞家の方と組んでいる曲もあったと思います。

(Photo:中村彩子)

N:今回の楽譜集の編曲されていて、何か気がついた事とかありましたか?

S:そうですね、オリジナルの楽譜が、ちょっと独特で、例えばテンポとかが一切書かれてないんです。歌い手にある程度委ねられてる部分があった様で、強弱もそうですけど。

N:譜面にはアーティキュレーションとか書いてないのですか?フォルテとかピアノとか。

S:はい。元譜には強弱は書いてないですね。それを照らし合わせて音源を聴くと、プレイヤーにすごく自由度があったというか、自由に演奏させていたんだなっていう事が分かります。今の時代にはない大らかさというか、鶏郎さんの自由な性格が出ているというか。例えばトムとジェリーの歌なんかは、音だけ聞いて採譜すると原譜と違うんです。あれは歌手の梅木マリさんに、自由に歌わせた結果ああいう風になったんだろうと思います。
現代の作曲家にはない自由度がレコーディングの時にあった様に思います。

N:当時、三木鶏郎さんはレコーディングに立ち会ったんでしょうか?

S:立ち会ったと思いますよ!

N:そこで、歌手の人とかアレンジャーや演奏家と、ワイワイやりながら作った感じなんですね。

S:きっとそうなのでしょうね。多分、自由に、歌い手の個性が活きるように録音したんだと思います。だから歌い手さんが変わると全然歌い方が変わったり、フレーズが変わったりするんですよね。

N:歌い手さんが変わった曲もあるんですか?

彩子さん・中脇

S:はい、あります。芦野宏さんが歌った曲を楠トシエさんが歌ったりとか・・・。同じ曲を何人かで歌っているものもあります。

(Photo:中脇雅裕/中村彩子)

N:お恥ずかしい話、私は三木鶏郎さんの事を正直存じ上げなかったんですよ。私も三木鶏郎さんバッチリの世代ではないけど、鉄人28号も知っているし、例えばキリンレモンなんかは今でも使われていますよね。もう何十年も使われている。
そういう意味では、日本人であれば必ずみんな知っている曲ばかりですよね。二、三十曲は聴いたことがあるっていう感じです。実はあの曲もこの曲もこ三木鶏郎さんだった。戦後初の売れっ子作曲家・プロデューサーかもしれないですね。

楽譜集表紙

S:そうですね。非常に多作で、聴いた事がある曲も多いと思いますが、実は三木鶏郎さんって引退が早かったんですよね。
もう50代ぐらいで引退しちゃって、後はのんびりとした生活を送るという・・・。80歳でお亡くなりになるのですが、30年間は悠々自適だったわけですね。海外とか行って遊んでいらしたらしいです(笑)。

(Photo:ピアノ伴奏で歌える 三木鶏郎ソング集)
N:今回の楽譜集は何曲選曲されたのですか?

S:25曲です。

N:それは鶏郎さんの作られた曲の本当に一部ですね。

S:本当に一部ですね。何千曲である中の。

N:何千曲ってあるんだ!凄いですね!
その中の代表的な曲を選曲されているのですね?

S:そうですね。

N:どういう基準で選曲されたのですか?

S:もちろん、有名な曲、CMなんかは誰もが知ってる曲とか。あと少しローカルCMも入れています。「冗談音楽」も有名なものを中心に選びましたが、あまり知られていない名曲も入れてます。私の好みでもあります(笑)。

N:歌のキーはオリジナルキーですか?

S:はい。楽譜集は原曲のキーで書いてます。

N:この秋に、その楽譜集を元にしたコンサートをされるという事ですが、どんなコンサートにされたいと思ってらっしゃいますか?

S:ピアノ伴奏でオペラ歌手が歌うというのは、既にYouTubeにアップしていますが、コンサートでは、ちょっとポップス寄りになると思います。半世紀前の戦後の音楽を今のミュージシャンがどう演奏するか楽しみです。

N:なるほど。そういえば当時の鶏郎さんのオリジナルの音源をYouTubeなどでいくつか聴いたのですが、歌手の方が本当に上手ですよね!発声はクラシック的ではないけど、今のポップシンガーの方とはまた違う独特の歌い方をされてるなと思います。

S:そうかも知れないですね。それを今風な感じでできると、また新しいものができるのかな・・・なんて楽しみにしています。

N:今の人が今の解釈で歌うので面白いサウンドになりそうですね。

S:当時の曲がそのままではなく、今の人たちによって今の解釈で歌われるっていうのはすごく夢があるなと思います。

泉麻人

N:そうですね!

(Photo:泉麻人)
S:それとこのコンサートにはゲストにコラムニストの泉麻人さんにご出演頂けるんです。泉さんはご親戚がびっくりするくらい三木鶏郎さんの事を知っているんですよ。「なんで、あの人親戚でもないのに知ってるんだ!」って言われるくらい調べ尽くしてます(笑)。泉さんのお話も楽しみにして頂きたいです。
どんな世代の方でも楽しめるコンサートなのですが、特に若い方に、現代的な新しい感覚のトリロー音楽を聴いて欲しいと思います。

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【コンサート情報】
ピアノ伴奏で歌える三木鶏郎ソング集コンサート
2023年10月9日(月・祝)
スクエア荏原 ひらつかホール(東急目黒線武蔵小山駅・東急池上線戸越銀座駅より徒歩十分)
12時半開場 13時開演
全席指定 
一般5800円(税込)
中学生以下2000円(税込)
未就学児童入場不可
詳細は以下ご覧ください https://www.capital-village.co.jp/calendar/concert/2023052602.html

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中村彩子(なかむらさいこ)
作編曲家。日本大学芸術学部、東京音楽大学研究科卒。教育作品や劇伴、クラシック、和楽器、ポピュラーアレンジなどの分野で幅広い活動を行う。「スペインのカスタネット」(音楽之友社)、「ピアノ伴奏で歌える 三木鶏郎ソング集」(カワイ出版)などを出版。

中脇雅裕(なかわきまさひろ)
音楽プロデューサー・著述家・ミュージックセラピスト
CAPSULE、中田ヤスタカ、Perfume、手嶌葵、きゃりーぱみゅぱみゅなどのヒット作品に深くかかわる。
音楽プロデュースの他にも書籍、雑誌、Web上で多くの執筆活動を行なっている。また、現在では音楽療法の分野でも活動の幅を広げ、2023年にはLA、NYにて外務省の協力の元、サウンドメディテーションのイベントを実施。高い評価を得ている。

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